薬剤耐性とは、細菌やウイルスなどの微生物が抗生物質や抗ウイルス薬などに対して耐性を持つようになる現象です。
薬剤耐性が広がると、感染症の治療が困難になり、健康や社会に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
薬剤耐性は人類が直面する世界的な公衆衛生上の脅威トップ10のひとつであると世界保健機関(WHO)は宣言しています。
薬剤耐性の原因と影響
薬剤耐性の原因は、抗菌薬の誤用や過剰使用です。
抗菌薬は人間だけではなく、畜産業、水産業、農業など幅広い分野で用いられています。
特に畜産業では、感染症の治療だけでなく、発育促進の目的で飼料に抗菌薬を混ぜて用いられてきました。
多くの国で畜産業における抗菌薬使用量は人の医療での使用量よりも多いことが知られています。
動物に抗菌薬を投与すれば、薬剤耐性菌が発生することは多くの事例で確認されてきました。
例えば、ブタ由来のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が畜産業従事者や獣医、さらにその家族に伝播していることが判明しました。
また、食肉を通じた伝播も確認されています。
家畜に生じた薬剤耐性菌が食肉に残存することもあります。
そのため出荷前には一定期間抗菌薬投与を禁止するなどの方法がとられていますが、残存抗菌薬よりも耐性菌そのものの方が重要な問題です。
薬剤耐性菌や抗菌薬によって環境も汚染されることがあります。
動物の排泄物に含まれる薬剤耐性菌が水系や農産物を汚染することで、人間に感染する可能性があります。
日本では都市河川からヒト由来の薬剤耐性大腸菌や一部の抗菌薬が検出されたことも報告されています。
また、東南アジアや南アジアへの旅行者がしばしば多剤耐性菌を保菌して帰国することも指摘されています。
薬剤耐性対策の取り組み
このように、薬剤耐性は人間だけでなく動物や環境にも影響を及ぼしており、ワンヘルス(One health)という観点から取り組む必要があります。
ワンヘルスとは、人の健康を守るためには動物や環境にも目を配って取り組む必要があるという概念です。
地球上には人間以外の多くの生物がさまざまな環境の中で生きており、人間の都合だけで地球環境を破壊することで危険を生じる可能性があります。
2015年5月の世界保健総会では、薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プランが採択され、加盟各国は2年以内に薬剤耐性に関する国家行動計画を策定することを求められました。
日本政府も2016年4月に初めてのアクションプランを決定しました。
このアクションプランでは、以下の5つの戦略的目標を掲げています。
- 抗菌薬の適正使用の推進
- 抗菌薬耐性菌感染症の予防と感染管理
- 抗菌薬耐性菌の監視と分析
- 抗菌薬や診断技術などの研究開発
- 国際協力とパートナーシップ
これらの目標を達成するためには、医療従事者や一般市民だけでなく、畜産業や水産業などの関係者も協力して取り組む必要があります。
また、国際的な連携も重要です。
日本では、東京AMRワンヘルス会議や薬剤耐性対策普及啓発活動表彰などのイベントを開催して、国内外に薬剤耐性対策の重要性を発信しています。
一人ひとりができること
薬剤耐性対策は一人ひとりができることから始まります。
以下のようなことに気を付けてみましょう。
- 感染症予防のために手洗いや咳エチケットを実践する
- 抗菌薬は医師の指示に従って必要な場合に限り、適切な量と期間で使用する
- 抗菌薬は自己判断で使用せず、余った薬は捨てずに返却する
- 予防接種を受けて感染症から身を守る
- 動物や食肉に触れた後は手洗いをする
- 食肉は十分に加熱して食べる
薬剤耐性対策は私たち一人ひとりの行動が大きく影響します。
健康で衛生的な生活を送ることで、自分だけでなく家族や友人、社会全体の健康を守ることができます。
みんなで協力して、薬剤耐性対策に取り組みましょう。
コメント